平成26年度 東山会会報

学内近況


名古屋大学大学院工学研究科
機械理工学専攻 教授

水野 幸治

G30自動車工学プログラム
  

名古屋大学は平成21年度、文部科学省による「国際化拠点整備事業文部科学省事業「国際化拠点整備事業(大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業)」であるグローバル30(G30)に、全国13大学の一つとして採択されました。G30は留学生と切磋琢磨する環境の中で国際的に活躍できる高度な人材を養成することを目的としたものです。これまでも名古屋大学では、外国人留学生が学部1年生から入学して卒業することが可能でしたが、この場合は日本語の講義を受けることが前提でした。G30では1年生から全て英語のみで講義を受け卒業することができるように体制が整備され、カリキュラムが組まれています。学生は国外で教育を受けた留学生と帰国子女が対象であり、秋入学(10月)となっています。名古屋大学のG30には、学部(関係学部:工・理・農・法・経)で5プログラム、大学院前期に5プログラム、後期に4プログラムあります。このうち、工学部の機械・航空学科および電気電子・情報工学科では、学部のG30プログラムとして「自動車工学プログラム」を実施しています。名古屋大学の他のG30プログラムには、理系では生物系、化学系、物理系、文系では国際社会科学、アジアの中の日本文化があります。東海地区は自動車産業で世界的に著名ということもあり、自動車工学プログラムの人気は高く、毎年、各国から多くの受験生が入学試験を受けています。
 自動車工学プログラムでは、自動車工学の基礎技術である機械、電気、情報、材料等に関する基礎力、応用力、創造力・総合力を身につけ、世界の自動車産業でリーダーの役割を果せられる人材の育成を目的としています。授業科目の多くは機械・航空工学科のカリキュラムを英語に置き換えて実施していますが、応用的な科目として、海外の自動車工学科を有する大学のカリキュラムを参考にして、自動車工学の専門科目を加えています。例えば、入学直後の1年生秋学期では全学教育を受けますが、それに加えて自動車工学プログラムでは実習科目として「自動車工学概論」を設けています。この科目は学生が実際の車の分解・組み立てを通して、まずは自動車、機械工学への興味を深めてもらうことを目的としています。高校を卒業して海外から初めて日本に来て戸惑っていた学生たちも、共同で作業を行うことで互いに打ち解け合い、生き生きとして自動車の構造の理解を深めていきます。学生からは数多くの質問が出され、教員も答えるのに考えてしまうこともしばしばです。

自動車工学概論の実習


 自動車プログラムの学生は平成26年8月現在、3年生が4名、2年生が8名、1年生が8名となっています(1期生は機械・航空工学科のみ、2期生以降は機械・航空学科および電気電子・情報工学科の合計)。国別ではインドネシア、マレーシア(各3名)、日本、トルコ(各2名)、米国、ウズベキスタン、シンガポール、ナイジェリア、ハンガリー、バングラディシュ、モンゴル、韓国、中国、台湾(各1名)と、多様な国々から構成されています。少人数ではありますが、各自、個性が強く、主張を持っています。のんびりしている学生がいる一方で、一所懸命に学び、多くのことを身につけようとする学生をみると、最近の日本人学生にはあまり見られない物事への理解に対する熱意を感じます。1期生は平成26年10月から4年生となりますが、既に研究室に配属されており、研究を開始しています。日本人学生も彼らから刺激を受けつつ、ともに切磋琢磨して研究を進めてほしいと感じています。
 教員側からすると、海外の高校を卒業してきた学生を対象とした英語のみによる教育は、試行錯誤の連続です。入学試験の事前説明では、海外の高校を卒業する予定の生徒達に、名古屋大学での研究、教育、学生生活などの魅力を説明していくことになります。いかに世界中から優秀な生徒を集めるかが重要になりますが、多くの生徒達は欧米をはじめとする海外の複数の大学を併願していますので、最終的には海外の大学との国際競争になります。高校での各科目の履修状況は国によって異なりますが、自動車工学プログラムでは入学後に講義を受けるうえで、既にある学業レベルに達している必要がありますので、それらを考慮しつつ入学試験を実施しています。
 G30自動車工学プログラムの学生は入学時、各自に学力差があるため、名古屋大学の他の学生のように皆、同様の高いレベルの講義を受けるというわけにはいきません。そのため、特に重要な全学教育科目、例えば1年生の数学や物理については必要に応じて補習を実施しています。外国語として日本語の科目が必修になっていますが、漢字を含めた読み書きとなると、特にアジア以外の学生にとっては習得に時間がかかるようです。G30自動車工学プログラムでは、専任の2名の特任教員がおり、機械工学及び自動車工学の専門教育に携わっています。また、自動車メーカーの方々に非常勤講師をお願いして、実際の自動車開発について英語にて講義をしていただいています。
 G30は開始して間もないこともあり、まだ卒業生がいないため、学生たちは自身の将来のことを不安に感じています。多くの学生は日本の自動車関連のメーカーで働きたいという希望を持っていますが、本国に帰って国の発展に貢献したいという学生もいれば、海外の大学院に進学したいという学生もいます。今後の学生の進学、就職についても、日本人学生とは違った指導方針が必要になると思われます。
 平成27年10月から大学院前期課程でもG30自動車工学プログラムを開始することとなっています。これによってG30学部の自動車工学プログラムを卒業した学生も大学院に進学して、勉学、研究を継続することが可能となります。大学院に関しても、既に海外から多くの問い合わせを受けており、現在の在学生に加えてどのようにして優秀な学生を集めるかが課題となっています。G30大学院のカリキュラムも学部と同様に英語のみとなっていますが、一部の科目は日本人も一緒に受講できるようになっており、日本人学生の英語力の強化にもつながると考えています。
 G30プログラムは2011年から開始されましたが、文部科学省からの予算措置が2013年に終了し、現在は名古屋大学の予算によって重要な事業として継続しています。2014年に名古屋大学は文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」に採択されたことから、さらなる国際化が進むと思われます。G30プログラムでは、教員が英語による講義を実施することに加えて、学生の様々な事務手続きも英語のみで可能とする必要があり、教職員にとって負担となっています。しかし、今後、名古屋大学が教育や研究に関して国際的に最高レベルであり続けるためには、国際的に開かれた入学試験、英語による教育・研究指導は不可欠であり、G30はこのための重要な第一歩であると考えております。東山会の皆様方におかれましても、G30学生へのご指導あるいは就職等でご迷惑をおかけすることになると思いますが、G30学生も機械・航空工学科の一員として、ご支援とご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

G30学生の紹介記事(中日新聞 平成25年1月)


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