平成24年度 東山会会報

会員からの便り


東山会 会計理事
名古屋大学大学院工学研究科
マイクロ・ナノシステム工学専攻 准教授

関山 浩介

平成 4 年卒業(第51回)


 最近,新聞や電車の中吊り広告で「失われた20年」というフレーズを頻繁に目にします.私が学部を卒業したのが平成4年ですから,丁度20年という節目もあり,妙に気になります.10年前には「失われた10年」という言葉もよく耳にしましたが,この表現の裏には,日本には「本当は実力がある」のにそれを適切に行使できなかった.技術力は世界一だが,戦略を誤った.それはもっぱら政治の責任である.そんな想いが込められていたように思えます.しかし,最近はその実力そのもの,つまり研究開発や企画力にやや陰りを示唆するようなニュースが増えているのに危惧を覚えます.

 私は企業も大学も研究開発の努力を怠っているとは思いません.しかし,何か方向性がずれていないかと感じることがあります.企業の管理職の方とお話をさせて戴くとき,個別技術では日本の方が優れているのに,標準化交渉では欧州や韓国勢に負けてしまうことが多いと聞きます.大学の知財担当者からは,シーズ技術に関する特許申請は多いが事業化につながるような出口イメージが乏しいと指摘されます.そして巷では,一部のマニアしか使わない高機能・多機能満載で結局使いにくい製品が依然として多いように思われます.携帯電話などで指摘された日本の「技術のガラパゴス化」も記憶に新しいことです.

 中部地方は日本の「ものつくり」産業の中心であり,要素技術では依然として世界一です.しかし,その技術の先に,「ものつくり」の先に,技術者や研究者は何を見ているのかが真に問われてきているのだと思います.こうした状況で,大学に課せられた責任はこれまで以上に大きくなっているように思います.単に「技術だけに関心を持った技術者」ではなく,社会や生活をどうしたいのかという構想力を持った技術者・研究者を一人でも多く輩出し,学生と共に考えていくのが大学教員としての自分の役割だと考えています.

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